
少子高齢化が続く我が国では、平均寿命よりも健康寿命が10歳程低い状況が続いており1)、要支援者や要介護者の増加と医療や福祉の需要増加が予想される。
一方、2011年以来地域包括ケアシステムの構築が広まり、高齢者等が住み慣れた環境で健康に生活を続けるためのケア体制の整備が全国的に見られるようなった。高齢者自身についても、自宅に住み続けたいと考える人が多い2)。
このような状況において高齢者自身による身体機能の維持は大きな課題であり、フレイルの予防は重要と言える。飯島3)は、フレイルについて健康な状態と要介護状態の中間時期であると述べている。多面的な概念であり、予防や改善には栄養・運動・社会参加3つの要素が重要となる。
このうち運動に焦点を当てると、運動内容についてはHEPOP20204)など様々な提案・研究が行われており、また山田 5)は低負担な運動でも十分に効果が得られる可能性を示している。一方、厚生労働省の調査6)では運動習慣のある65歳以上の割合は男女共に半数を下回っており、重松ら7)の報告では、運動頻度が少ない高齢者は個人での運動を望むため、簡便な自宅運動の提案が適しているという。
高齢者住環境研究会の調査8)では、多くの高齢者世帯で寝室の移動と生活領域の縮小が見受けられた。この傾向は事前のヒアリング調査でも確認され、同様の調査では家具の移動ができず運動場所を確保できない例も確認された。
高齢者にとって自宅は健康維持の土台である。自宅に適切な環境を作ることにより、身体機能の低下や社会情勢の変化に関わらず、高齢者自身の力で健康を維持することが可能となる。しかしながら、高齢者の自宅を対象に運動の実施を妨げる要素や促進させる要素について着目した研究はほとんど行われていない。
そこで、本研究では高齢者の自宅における居住環境と運動傾向の関連を明らかにすることを目的とする。
調査
調査対象者は泉区将監に住む65歳以上の高齢者のうち現在介護を受けていない方とした。また、調査では住居形態による比較も行うため、仙台市泉区将監のうち、戸建て住宅が大半を占める2丁目、県営住宅団地を含む6丁目(県営住宅将監第三団地を除く)、UR住宅団地を含む9丁目を対象とした。
アンケート調査においては、調査紙は対象地域の町内会及び自治会の承諾を得て全戸配布を行い、対象者にのみ回答を依頼した。
また、本研究では自立した生活を自宅内で送ることを想定しているため、現在日常的に介護を受けていない高齢者のみを有効回答とした。
本調査では、運動頻度が週2回以上かつ1年以上継続していると回答している人を「運動習慣がある人」、自宅での運動に最も使用したい場所として回答した居室と実際に使っている居室が異なる人を「理想居室と使用居室に差がある人」として取り扱った。
分析の結果、家族や友人とスポーツや趣味に関して頻繁に連絡している人ほど運動に自宅内とそれ以外を併用しており、連絡頻度が低いほど自宅内のみを選択していた。また、運動習慣がある人ほど自宅内とそれ以外を併用し、運動頻度が低いほど自宅内のみを運動場所とする傾向が見られた。住居形態については、戸建て住宅ほど自宅内とそれ以外を併用し、UR住宅や県営住宅を含む集合住宅ほど自宅内のみを選択している。なお2階建て以上の戸建てに住む高齢者では、2階以上も問題なく使用している人ほど、自宅外でも運動をしている傾向が見られた。また、運動をする際に最も使用したいと思う居室については、居間が最も望まれている傾向が見られた。一方で、現状の理想居室で家具を動かすことなく実施可能な運動内容と自宅使用の有無については、関係は見られなかった。
次に、住居形態や運動に使用している居室、運動内容のそれぞれと運動頻度の相関を検証するため、独立性の検定を行った。
分析の結果、運動頻度によらず立位での運動が最も行われていた。週2回以上の運動を行っている人はそれ未満の人に比べ、自宅で臥位での運動を行っている割合が多いことが示された。一方で、住居形態や使用居室、理想居室と使用居室の差の有無は運動頻度には影響していないことが示された。
最後に、運動場所や運動習慣と一人での家具の移動の可否との関係について検証するため、独立性の検定を行った。
分析の結果、自宅内以外も併用し運動している人は、家具の移動及び運動空間の確保も可能であり運動習慣がある人の割合も高いが、自宅内のみを運動場所としている人は、運動空間の確保や拡張が難しい状況にあり運動習慣がある人の割合も低いことが示された。
研究方法
分析の結果、運動と交流のいずれも活動的でフレイルの可能性が低い人ほど自宅内と自宅外の両方で運動を行っていた。一方で、他者との交流が少なくUR住宅や県営住宅を含む集合住宅に住んでいる人ほど自宅内のみを運動場所としていることが明らかとなった。また、そのような人においては家具の移動ができず運動場所の拡張ができず、運動頻度も少ないことが明らかとなった。重松らの調査を踏まえると、これはフレイルの可能性を持つ人が悪循環を引き起こしていることを示している。
この結果を受け、県営将監第一住宅を対象に団地の改修提案を行う。将監6丁目は将監地区において最も高齢化率が高い地域であり、自宅におけるフレイル予防環境の充実と、自宅外との繋がりを維持するための支援の必要性が高いと考える。
改修は、棟内の間取りの変更と、敷地全体の動線の変更の2つを中心に行った。
各部屋は、間仕切りを減らし、2部屋を1部屋とするといった改修を行うことで、これまでよりも1室を広く取ることが可能となった。これにより、家具を移動せずとも運動を可能とする空間の拡張が期待される。
また、団地内の集会所や公園、専用駐車場周りの動線を整理し、集会所と公園、各棟から最短の専用駐車場や団地の出入り口から各棟へ繋がる動線を新たに確保した。これにより外出に伴う身体的及び心理的な負担が軽減され、より長く高齢者自身の力で自宅外での活動を維持できると考える。
これらにより、県営住宅に住む高齢者の健康寿命の延長と住み慣れた環境での生活の維持を実現する住環境となることを目指した。
まとめ
本研究では、自宅内でのみ運動をおこなっている一方で宅内にでの運動場所確保に課題を抱えており、運動や他者との交流にも消極的な高齢者の存在が明らかとなった。彼らの持つ特性は身体機能の低下を引き起こしやすいと推測され、その解決には高齢者個人の能力を支える介入が重要であると考える。特に空間においては、高齢者の能力に左右されない運動スペースの確保や、高齢者自身による自宅外での活動や他者との交流を促す環境づくりが重要だと考える。
参考文献
1)内閣府:平均寿命の推移と将来設計, 令和4年版高齢社会白書, p.6
2)内閣府:虚弱化したときの居住形態, 平成17年高齢者の
住宅と生活環境に関する意識調査結果, p.5
3)飯島勝矢(2018):高齢者と社会(オーラルフレイルを含む), 日本内科学会雑誌, 107巻12号, pp.2469-2477
4)大沢愛子, 前島伸一郎, 荒井秀典, 近藤和泉(2021):コロナ禍における高齢者の健康維持に向けた取り組み, 日本老年医学会雑誌, 58号, pp.13-23
5)山田実(2019):フレイルの予防における運動療法, 臨床スポーツ医学, vol.36, No.4, pp.354-360
6)厚生労働省:1週間の運動日数-1週間の運動日数年齢階級別人数割合-全国補正値総数男性・女性20歳以上, 平成28年国民健康・栄養調査, 36巻, p.135
7)重松良祐, 中垣内真樹, 岩井浩一, 藪下典子, 新村由恵,田中喜代次(2007):運動実践の頻度別にみた高齢者の特徴と運動継続に向けた課題, 体育学研究, 52巻, 2号,pp.173-186
8)高齢者居住環境研究会(2011):居住環境から見た在宅要支援高齢者の居室の用途変更に関する研究, 名古屋市高齢療養サービス事業団平成22年度公益事業助成・研究成果物, pp.29-30
研究を終えて
研究にあたって多くの高齢者に触れる機会を得た。活動や交流を積極的に行っている方や、そうではない方。様々な高齢者と話をする中で共通していたのは、住み慣れた場所で楽しく住み続けたいという思いだ。今回の調査は反省点が多く、アンケート設計や分析などについて、より精査することで今以上に深い調査となったのではないかという思いもある。研究で明らかとなった集合住宅の傾向や、高齢者が外で運動を行うための仕掛けなどは、今後さらに調査が必要だ。しかし、先に述べた高齢者の思いを直に感じ、強い課題意識を持ちながらその解決のための調査を行ったという過程は、自身にとって非常に意味のある経験だったと感じている。調査を支えてくださった指導教員の方や合同で調査を行った方、そして調査に協力してくださった将監地区の方々に感謝したい。