
高齢化社会、在宅医療の一般化にともない、医療器具の使用頻度はますます高まりを見せ、その存在は私たちの生活のなかで身近なものとなりつつある。そうした中、ユーザー(患者)目線の開発姿勢は重要になってゆくものと考える。私自身、長期の入院を経験した中で、既存の医療器具に不便を感じることが多々あった。あと少しの改良によって改善されるものであるのに「惜しいなぁ」という感想をそのときに抱いた。ときに人間中心設計の重要性が注目されている今日、医療器具を使用する者に対する「患者ファースト」というべき姿勢はより一層注目されていくものと考える。これから医療器具を使用する者のためにも、不満点を改善したより良い医療器具を提案することで高齢者や患者の負担を減らす施策が必要であると考えた。
調査
現行点滴スタンドの機能についての調査
点滴スタンドは、主に輸液療法に伴い使用される。また輸液パックを取り付けた状態で、売店や談話室などの場所
へ移動する際に役立つ。抹消から点滴を取る者は点滴を繋がれた状態で生活しなければならないため、点滴スタンドが生活する上で重要な役割を果たしている。スタンドにはハンドルがありユーザーが移動する上で必要な機能である。また高さ調節ができることで、ユーザーに適した点滴台のサイズ調整を行うことができる。蜂ヶ崎(2012)は、点滴スタンド歩行は高齢者や転倒経験者の歩容に近づくこと,点滴スタンドの高さは身長の110%,支柱を把持する高さは身長60%または 70%が望ましいということを示した。
点滴スタンドにも様々な種類がある。一般的によく見受けられるスタンドや酸素ボンベ用がある。最近では、小児用にデザインされた子供受けするようなデザインの点滴スタンドや機能性を重視した近代的なデザインのものも存在する。
研究方法
制作の概要
前期では質的研究法の分析から、点滴スタンドの制作を行った。後期では、前期を踏まえた上で点滴スタンドを制作する。パーツは3Dプリントを用いて行った。また患者が明るい入院スタイルを送るためにも、木材での施策を提案する。オレンジ系の色は、温もりや安心感を与えてくれるため、無機質な空間に自然を取り込むことで日々辛い治療生活を送っている人々の安らぎになれればと考え制作を行う。また色やパーツなどを患者自身がカスタマイズできるデザインにすることで点滴スタンドの自由度の向上に努めた。
カーテンに引っかかりにくいデザイン
前期で制作した際は、上部のデザインのサイズが大きすぎたため、後期ではサイズ感を小さくしたことで圧迫感を軽減しやわらかさを表現した。また軸にはめ込む形にすることで安定感を上げた。このデザインの中は空洞になっているため、ライトを設置した。夜中移動する際や点滴のメモリを看護師が確認する用途に使用することができる。
ボトルホルダーのデザイン
図1から前期では制作できなかったボトルホルダーのデザインを行った。患者が飲み物を持って移動するときや自販機で購入した時を想定して制作した。図からも分かるように、500mlのペットボトルをきちんと収納できる造りになっている。その他の一般的なコップなども収納することが可能である。
高さ調節のデザイン
高さ調節のデザインを行った。上部と下部の部品を回すことによって、上軸と下軸の固定をすることができ、高さ調節をすることが可能になった。これはハンドルなどのパーツを制作する際にも応用しており、軸の途中で固定することが可能であり、ユーザーに適した位置で使用することができる。
多機能ケースデザイン
患者が日常で使用するものを置ける台があると生活が便利になると考え提案する。具体的には、患者が当日飲む錠剤などの薬を一時的に置くことや、スマートフォンを立て掛けるなど、ユーザーの目的にあった使い方ができるデザインである。
点滴スタンドのデザイン評価
制作した点滴スタンドの評価を行うため、アンケートを行った。アンケートの内容は、製作された点滴スタンドのデザインについて問うものである。それぞれのパーツについて「機能的」「装飾的」「補助的」「実用的」のどの項目が当てはまるかの調査を行った。点滴スタンド上部のデザインや高さ調節のデザインについては機能的と回答する人が50%を占める一方、ボトルホルダーやケースのデザインについては実用的と回答する人50%以上を占めた。ハンドルのデザインについては機能的、装飾的、実用的とか回答する人が同等の割合だった。人それぞれデザインに対する感じ方が様々であることが分かった。また点滴スタンドのパーツの中で、カーテンに引っかかりにくいデザインとハンドルのデザインが便利と感じた人の割合が多かった。カスタマイズできる点滴スタンドを使用してみたいという声は多かった。「全体的に丸みを帯びているため当たっても痛くない点がユーザーにとって良い点」という声もあった。「患者を看護する上で、軽い程良い」という意見がある一方で、安定性に欠ける点や足の数が多いという意見があり、点滴スタンドの土台部分の構造については改善の余地がある結果になった。
まとめ
点滴スタンドをデザインする上でユーザーの満足を得るためには、輸液療法を行えるだけでなく日常生活を豊かにする付加価値的なデザインが必要であると考える。日常で起こりうる不満を解消することが大切であると考える。制作に関して、前期で制作できなかったパーツを、3Dプリントを用いることで加工の精度や生産力の向上に繋げることができた。また、色の種類を増やすことやパーツを分けることでカスタマイズするなど前期ではできなかったことを実現できたと考える。しかし、アンケートから移動時のユーザーへのストレスが挙げられるように、不安定さの改善は必要になると考えられる。また、看護師目線からスタンドの重さは、できるだけ軽い方が良いことから、軽量かつバランスの良い設計にすることがユーザーにとってより良いプロダクトに繋がるのではないかと考える。
参考文献
大谷尚 2008 質的研究法とは何か 教育システム情報学会誌 2、341
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsise/25/3/25_340/_pdf)
蜂ヶ崎令子 2015 点滴スタンド使用時の危険性:看護師に対する質問紙調査から Japanese Journal of Nursing Art and Science 1,86-95
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnas/14/1/14_86/_pdf)
多賀昌江・照井レナ・神島滋子・三谷篤志・酒井正幸 札幌市立大学研究論文集 2、25-32
A good thing ,start here gooodoo 高齢化社会による問題とは?日本の現状や対策について知ろう
(https://gooddo.jp/magazine/health/aging/)
点滴スタンド「divo(ディーボ)」新発売
(https://www.okamura.co.jp/company/topics/product/2013/divo.html)
点滴スタンドfeel div STAND
(https://www.medidea.co.jp/works/feel.html)
ボンベ架付きガートル台
研究を終えて
入院した経験から既存の点滴台に不満を感じることがあり、良いプロダクトにしたいという思いから制作を始めました。制作を行なっていく上で、自分が思い描いたプロダクトができる一方、自分の技術のなさを痛感するところも多々ありました。これからもこの経験をもとにより良いプロダクトの制作をできるように精進していきたいと思います。