これまで漆の研究は化学的アプローチとその成果を技術情報として主に工芸産業に向けて提供するというものでした。漆は需要・供給の両面で危機的状況を迎えています。一部では現代の民藝として生活工芸と言われる新しい(?)分野が注目されており、現代生活での漆の新しい理解が進むことは素晴らしいことですが、一方で従前の工芸分野だけの需要に頼ることでは恐らく十分な供給喚起にはつながらないと考えています。
陶芸は「土を焼く」という単純な原理ですが、土や釉薬の組成・焼成温度といった純粋に化学的な側面を持ち、これらを科学的に取り扱うことで技術への理解が深まると同時に、普遍性を帯びることによって、芸術表現だけではなく一般のものづくりの原理としても発達しました。究極的にはセラミックスとして現代の情報技術を支える半導体にまで姿を変え、もはや焼き物とルーツを同じくするとは想像もつきません。
土岐研究室では塗料であること、接着剤であること、抗菌作用があることといった漆のもつ本質的な性質に着目し、その原理から応用を探るアプローチで研究を行っています。それぞれの原理を理解し活用するためには伝統的な工芸技術は基盤になりますが、さらにデジタルファブリケーションやアルゴリズミック・デザインといった現代技術をふんだんに取り込むことで「今」の視点で漆を見つめ、その成果を主にデザイナーや建築家に提供してきました。結果的にその成果は漆器とルーツを同じくしつつもその姿はまったく異なっています。
土岐研究室で取り組む漆の研究の目指すところは、「デザインとともにあること」。要素技術の提供だけでなく、それを具体的にかたちにした場合にはどうなるのか?というその姿までをトータルで発信しています。
宮城大学
事業構想学群
価値創造デザイン学類
土岐 謙次