2018年度から価値創造デザイン学類2年生対象の『身体と認識』が新しく開講した。新しく、と言ってもこれまでのカリキュラムで人間(ユーザー)の身体や知覚・認知の問題が軽視されてきたわけではなく、これまでも同じく茅原が担当していた『感性情報処理』という授業でそれらは扱われてきたし、実際、『身体と認識』は『感性情報処理』の後継(読み替え)授業と位置づけられている。人間の特性やメカニズムがそんなに急に変わるわけもないので、授業内容が大きく変わることもない。
だから、より人間のことが前面に打ち出されたこの名称変更には宮城大学が考える「デザインのこれから」についての見識が込められていると考えるべきだし、折しも9月に新しく開所したオープン・スペースである「PLUS ULTRA-(プルス・ウルトラ)」にはこのスペースの目指すところ・コンセプトとしてCreative、Constructive、CooperativeににならんでCognitiveという言葉が掲げられている!
この『身体と認識』が具体的にどんな授業とつながっていくのかというと、まずは『ユニバーサルデザイン』と『エクスペリエンスデザイン』がまさに『身体と認識』で得られた「言葉」によって語られることになるだろう。また、カリキュラムマップには直接パスが引かれていないが『インタフェースデザイン』と『音響・映像デザイン』の理解には『身体と認識』で得られた知識と考え方が直接・間接に役立てられることになる。とくに、『音響・映像デザイン』は『身体と認識』より高次のナラティブレベルで聴覚と視覚が語られる授業とも位置づけることが出来るような内容になるだろう。さらに、『感性デザイン評価法』は『身体と認識』で取り上げられた様々な特性を人間からいかにして引き出すかというまさに「『身体と認識』の方法」とも位置づけられる授業であり、実は『身体と認識』とは一番太いパスで結ばれている。
最後に、『身体と認識』の位置付けの理解を助けるために、この授業が直接「つながっていないもの」をひとつだけ挙げておこう。これは授業の中でも触れたことだが、『身体と認識』はここで示された人間理解がそのまま形になるような「デザインの処方箋」とはつながっていない。それは単にこの授業が応用面に触れていないからではなくて、そもそもデザイン実践と科学では人間理解の方向や水準が全く異なるからである。これを読んでいるあなたが広義のデザイナーを目指す受講生だったら、このことは『身体と認識』を受講するときだけでなく、将来にわたって気にしておいたほうがよいことだと思うし、自分が人間の科学的理解を「直接」デザインに反映させようとしたり、反映させることができなくて悩んでいることに気づいたら、そのときはちょっと気をつけたほうがいいかもしれない。これはちょっと不遜な物言いだが(それに自分としては科学的理解を実践に架橋することをサボるつもりはないのだが)、人間の科学的理解だけで説明されきってしまうようなものなら、わざわざデザインなる行為を別立てする必要はないのである。
宮城大学
事業構想学群
価値創造デザイン学類
茅原 拓朗