グッドデザインレクチャーVol.2 レポート

GOOD DESIGN LECTURE

2019年11月、宮城大学の価値創造デザイン学類において、グッドデザイン賞の受賞者によるレクチャー「Good Design Lecture」が開催されました。第2回目を迎える今回の講師は、今年のグッドデザイン賞でファイナリストに選ばれた富士通株式会社マーケティング戦略本部にてOntennaの開発に取り組む本多達也氏。実際に学生たちにOntennaを使用してもらいながらOntennaの活用について紹介していただくとともに、ワークショップでは「自分にとってのGOODなOntenna」にというテーマで、ギャラリーウォークを交えながら考えを深めました。またこのレクチャーの実現に当たってご協力いただいた、日本デザイン振興会の矢島進二氏にも同席いただき、グッドデザイン賞の社会的意義なども解説していただきました。

講師紹介

本多達也氏

富士通株式会社
テクノロジーソリューション部門
ビジネスマネジメント本部
事業推進統括部
Ontennaプロジェクトリーダー

1990年香川県生まれ。大学時代は手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ、NPOの設立などを経験。人間の身体や感覚の拡張をテーマに、ろう者と協働して新しい音知覚装置の研究を行う。2014年度未踏スーパークリエータ。第21回AMD Award 新人賞。2016年度グッドデザイン賞特別賞。Forbes 30 Under 30 Asia 2017。Design Intelligence Award 2017 Excellcence賞。Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2019 特別賞。2019年度キッズデザイン特別賞。IAUD国際デザイン賞2019大賞。2019年度グッドデザイン賞金賞。

Ontenna開発のきっかけ

Ontennaの開発を始めるきっかけは、本多さんが大学1年生の時、ろう者(耳の不自由な人)に出会ったことにあるそうです。また、もともとアートやデザインに興味があり、脳波を使いコミュニケーションデザインのインタラクティブな作品「shikakuka」を制作したり、留学した際にはプロダクトデザインの勉強をされていました。

社会人になってからはUIデザイナーとしてプリンターのデザインなどをしていましたが、学生時代から研究していたOntennaが色々なメディアに取り上げられ、応援の声などもたくさん届いていたそうです。

そうした中で本多さんは「自分がこれからやるべきことは何か」と真剣に考え始めるようになり、現在所属されている富士通株式会社に転職。2016年からOntennaのプロジェクトを開始しました。

新しいインターフェース「Ontenna」とは

Ontennaは、髪の毛や耳たぶ、えり元やそで口などに身に付け、振動と光によって音の特徴を、体で感じる全く新しいユーザーインターフェースです。ろう者と健常者が共に楽しむ未来を目指し、ろう者と共同で開発されています。

Ontennaにはマイクとバイブレータ、LEDが内蔵されており、マイクが60~90dBの音を、256段階の振動と光の強さに変換して、音を振動として伝達します。

音源の鳴動パターンをリアルタイムに変換することで、音のリズムやパターン、大きさを振動で知覚することができ、聴覚障害者はリズムの緩急や強弱などを認知することができるようになります。

また、コントローラーを用いることで、複数のOntennaを同時に制御もでき、今後、多様なユースケースに活用されることが期待されています。

Ontennaについて

Ontennaは「まるで、ねこのヒゲが空気の流れを感じるように、髪の毛で音を感じることのできる装置」をコンセプトに、ろう者と協働して生まれた新しいユーザインタフェース。ヘアピンのように髪の毛に装着し、振動と光によって音の特徴をユーザに伝える新しいユーザインタフェース装置となります。

社会でのOntennaの活躍

実際に2019年の7月から販売を開始したOntennaは、聾学校に無償で提供され活用されている他、病院などでも活用されています。Ontennaを使用することにより、リズムに緩急や強弱が認識できるようになったり、機械や打楽器に興味を示さなかった方も興味を示しやすくになったそうです。

そのほかにも、映画でのユニバーサル上映や狂言、音楽ライブ、盆踊り、パラ卓球、川崎フロンターレなどのスポーツ、「耳で聴かない音楽会」、「NHKハート展」、「万華響-MANGEKYO-」(JTB)、24時間TVなど、様々なジャンルや企業、企画とコラボレーションを実現しているのも特徴的です。

視覚情報だけでは伝わりきらない場の臨場感やリズム感、抑揚などをOntennaで表現することで、ろう者の方だけに役立つものではなく、健常者が新たな感覚を楽しめるデバイスとして、新しい価値を創出している点も学生たちの心を掴んでいました。

「一緒に楽しめる」をデザイン

本多さんが目指すのは、Ontennaを通して耳の聞こえない人と健常者が一緒に楽しみ、交流する未来です。ろう者にテクノロジーを使って音を届けたいと言う想いから生まれたOntennaですが、Ontennaをつけ音や振動を無邪気に楽しむ健常者の子供たちを見た時に素敵な未来を想像したと語られていたのが印象的でした。

また、Ontennaに触れることは、健常者の中でそもそもろう者と関わったことが無い人が、彼らはどんな音を聞きたいのだろうか?どのような生活を送っているのだろうか?と考えるきっかけをもたらします。

確かに、振り返ると何気なく生活している中でどれだけ障害をもった人に意識を向け、手を差し伸べられているだろうとハッとします。本多さんが描く未来は、生産者(Ontennaを作る人)と消費者(Ontennaを使う人)だけの関係だけではなく、それらを取り巻く人や環境が考えられたまさにグッドデザインな視点だと思いました。

グッドデザイン賞について

レクチャーの始めに日本デザイン振興会の矢島進二氏からグッドデザイン賞についての説明がありました。今年のテーマは去年に引き続き「美しさ」。「綺麗」や「形」に対する美しさだけではなく、「豊かさ」を表現するもの。その美しさには多くの人に共鳴・共振する力があると矢島氏は仰っていました。

また、この時代社会性や公共性を踏まえていないと良いデザインとは言えず、そのような時代感覚や課題意識がデザインに伴っているのか。これからの時代のモデルとなりうる可能性があるのか。このような観点を踏まえて審査を行っているそうです。

今年のグッドデザイン賞大賞は、富士フイルム株式会社の「検査キット[結核迅速診断キット]」。写真現像の技術を応用し、結核菌の存在を判定することで早期治療につなげることが可能で、電源や装置を用いない簡単確実な検査を実現しています。

今年グッドデザイン大賞を受賞した作品を見てみると、今の時代が抱える問題に機能することができる作品が選ばれていると感じました。

対話型ワークショップ

本多さんと学生で行われたワークショップでは「自分にとってGOODなOntennaを考えよう」がテーマでした。それぞれ個人で考えながら、次に3・4人のグループで自分の考えをシェア。最後にグループの中でも推薦された何人かが全体で発表という流れとなりました。

ワークショップでは、学生達の自由な意見が行き交いました。「スキ」という音にOntennaが反応し、街中にあふれる「スキ」に気づきたいという愛のある意見から、地下鉄の扉の音に反応し、降り過ごしを防ぐという学生らしい意見があがりました。

十人十色のOntennaの活用例を考案しながら、どんな音が聞こえたらいいだろうと会場全体がOntennaやろう者への想いをめぐらせるワークショップになっていたと思います。

質疑応答

最後に本多さんや矢島さんに対して学生から質疑応答の時間がありました。個人製作から企業制作への転換についての質問や、Ontennaは将来的に言葉を感じられるようになるのかなど様々な質問があがりました。

他にも、開発チームというのはどんなメンバーで構成されているのか?やグッドデザイン賞の審査委員はどうやって選ばれているのか?など独自の視点からの疑問も投げかけられ、学生は興味深々で回答を聞いてました。

矢島さんからは「社会に出て行いくとチームで働き、あるプロジェクトのある部分を担うということが当たり前になるから、今のうちからそのことについて意識しているとよい」という学生へのアドバイスもありました。

デザインとは人のためのやさしい知恵です

編集後記

学生にとって今回のGOOD DESIGN LECTUREは、デザインを通して自分は人の為に何ができるのかと考える有意義な時間になったと確信しました。

また、本多さんがすでに学生時代からOntennaについて構想しており、長い年月をかけて製品化に至ったという事実は、学生にとって「これから自分が何を成せるのだろうか?」とワクワクした未来を想像するいい刺激になったと思います。加えて、Ontennaの製品化まで多くの困難を乗り越えたことから、本多さんの熱意と諦めない心もしっかりと感じ取ったはずです。

「デザインとは人のためのやさしい知恵です」という言葉が今回の講義の中で強く印象に残りました。本多さんの貴重な講話や矢島さんのグッドデザイン賞についてのお話しを聞き、やさしく誰かの為になるようなデザインを目指していきたいと改めて思いました。

編集部(赤坂捺美/山口菜穂)

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